Art Site Horikawa-II

徒然なる思いも含め書く事を積み上げ、アートの発想、構想力を鍛える。

後輩に残すことば(再掲)

 

後輩に残すことば(先生力を高める)

                                              上越市立八千浦中学校 堀川紀夫

はじめに

美術は心・内界・頭脳に生じた想い・イメージを外界に表すことであり、空間に生成する。平面であれ、立体であれ、色・形・材料を紡ぐ美術表現それぞれに生成の理がある。美術には美術ならではの論理がある。一点のシミもイメージの言葉である。このような考え方、見方が身に付いてくると美術はどんどん面白くなってくる。

教師生活38年目である。美術教師として直接生徒を指導した期間は26年間で、この間は魅力ある題材開発が中心だった。管理職に就いてからは自作備品づくりが主なテーマとなった。しかしそれもあと半年である。攻めの姿勢で美術教師としての実践可能性を探り、有終の美を飾りたい。

この間で生徒に教え教えられつつ体を成してきた美術教育についての考えを整理して本小論の主題に迫りたい。

1 美術教師は題材開発が命

コマーシャルで芸能人は歯が命という。芸能人の必要条件の一つではあろうが十分条件ではない。重要なのは十分条件である。美術教師は題材開発能力が命である。

美術科の指導要領の内容を本質的に考えれば考えるほど、教科書題材の代替可能性が広がっていく。その意味で美術科の指導内容と題材の関係は開放されている。富士山だけが山ではない。至る所に青山はある。色々な研究的協議の機会に納得してしまうのは、よい指導をしている美術教師ほど教科書から離れるというパラドックスを内包していることである。

 私の場合、最初に現代美術があった。現代美術の多様さ、自由さに魅せられて大学を卒業し、美術教師生活が始まった。私のある題材開発が初発からの研究主題となった。私の題材は私の作品であり、私の表現活動の全て、またその断片が題材となった。また汎材料主義、新素材主義が重要である。自分で見付けた材料を題材化することである。また市販の教材をそのまま取り入れることは堕落である。

2 情操という思考力が命

美術で絵を描いたり、彫塑で石膏取りをしたりという技術は習ったことがある。それはそれで楽しいものであり、教える内容ともなった。しかし、教科の最終的な目標は情操を豊かにすることである。情操は感性を統御する高次な感情である。美・創造・造形性を追求することで情操が形成されるのである。

さて創造的な作品表現を目指すには、味には味の素があるように、美術の素、美術の要素、とりわけ造形思考の開放的な広がりを獲得する頭脳活動が必要である。美術を生成させるものは脳の力であって他ではない。重要なのは眼・手・頭を駆使し、色・形・材料を紡ぐ造形的な思考の力である。換言すれば外界と美術的感性との共振・共鳴という相互作用である。

経験を積むに伴って身の周りの事物、事象が豊かな意味を持って立ち現れてくるようになる。森羅万象の呼吸が花一輪に見いだせるような心の境地である。アートでいうならメタ・アートの地平の獲得である。このレベルで表現活動を動機付け、教え、支援する双方向の授業づくりは美術教師冥利の楽しさ一杯である。このような美術の本質に迫る見方、考え方については実践レポートで自らの教育実践を客観化することと作家としての表現活動を展開する両輪で獲得したように思う。

3 身体に刻む感動体験が命

 中学校三年間の指導計画にオリジナル的な作品をちりばめること、できたら全てを私のある題材で構成したいと願ってきた。かなりの題材を開発してきたが、机サイズ(平面なら4ツ切り画用紙)を超えることがなかなか出来ない。音楽では全校であるいはそれ以上の人数で大合唱が可能であるのに、美術は規格化された机サイズで終始してしまう。このことに活路はないのか。そこで共同で行う創造活動の題材開発に傾注した。例えば10mもの長尺画用紙を使った卒業共同作品。また、薄い用紙を張り合わせる熱気球づくり。体育館やグラウンドを使ったりする身体に刻む美術授業である。それらは空間的な拡大で勝負するものと、空間を限定した無限分割に場所を得る方法の二つとなった。後者の成功例は「卒業パズルメッセージ」という学年共同作品で、平成元年度に上越市立城北中学校で始まった。そして、今年度に至るまで継続実践されてきている。そのことにここで感謝と敬意を表しておきたい。

4 終わりに

教頭職なって美術科指導から離れて題材開発ももはやこれまでと観念した。が、学校独自の教具・備品づくりや行事への参入、環境整備などに美術に関わる実践の可能性が大きく広がっていたわけである。

その中で、一番の成功例と自負するのが自作備品の聖火台である。設計が勝負の発注作品である。体育祭で年に一回使うだけの贅沢備品で、オリンピック同様に演出効果は抜群である。

美術教師は時数減に伴い半減し、困難な時代に直面しているが、美術教師は美術が命である。教科指導を超えて美術の良さを学校運営の中に生かしていく大きな美術力を培うことが肝要である。              

                    (造形ニュース掲載  平成17年7月)